▼鶏頭山 選擇寺の御朱印。(浄土宗/千葉県木更津市中央1-5-6)
「擇」の字は「選択」の「択」の字の異体字です。
しかし、この寺名の読みは「せんちゃくじ」。
誰も「ちゃく」と読むとは思わないでしょうが、意味は「選択」そのものです。
人の名前と同様、読み当てるのが難しい寺名や神社名です。
左上のコウモリのイラストスタンプの文字は「こうもり安 墓あり」。
▼寺へはJR内房線「木更津駅」西口から400mもありません。
▼JR内房線を通る列車はすべて停車する「木更津駅」ですが、人影は極端に少ない。
2020年の統計で「木更津駅」の1日あたりの乗降者数は約1万人。
東京の地下鉄乗降者数ランキングの129位、有楽町線「桜田門」とほぼ同じです。
総人口約136,000人の木更津市ですが、どこへ行っても活気が見当たりません。
▼西口から海側の西へまっすぐ伸びる「富士見通り」も人通りは多くありません。
アクアラインの木更津側、アウトレットパークは人で溢れているでしょうが、
その人出は駅前の商店街にはなんの恩恵もなく、東京周辺の人間はともかく、却って地元の客さえ奪われているのかもしれません。
と言うより、アウトレットパークに限らず基本は全国どこも同じで大規模小売店に客を奪われている地元の商店街でしょう。
西口から富士見通りを直進して200mほどの所を右折して「寺町通り」に入ります。
「愛染院」などの寺を右に見ながら進むと、
▼通りの突き当りが「選擇寺」の総門です。
▼境内にも全く人の気配はありません。
▼門の左には御朱印にも記されていた「こうもり安」の墓のガイド板が立ちます。
▼参道の左右は墓域になっていて、他に木々が多いわけでなく、特に庭らしい面積を持つ部分もありません。
▼参道正面の本堂は見るからに素っ気ない鉄筋コンクリート造りですが、1930年建立で国の登録有形文化財になっています。
寺は鎌倉の光明寺を中興した祐崇により室町時代の創建されたと伝わります。
毎年夏には「えんま様のご縁日」が開かれ木更津の風物詩となっているそうです。
▼浄土宗の宗祖 法然は「選擇」を選びとることの大切さを表わす言葉としています。
▼さて「こうもり安」の墓です。本名は山口瀧蔵。
「こうもり安」?知らないので調べてみました。
▼下の浮世絵の左が「こうもり安」。(▼写真は「Tokyo Museum Collection」)
歌舞伎演目「与話情浮名横櫛(よはなさけ うきなの よこぐし)」の登場人物で、
右が「切られ与三朗」で、左が彼の相棒の「こうもり安」です。
で「こうもり安」のモデルとされたのが本名 山口瀧蔵です。
余計な話ですが、浮世絵では「こうもり安」の両足は不思議に190度くらいに開いています。
▼この歌舞伎にはもう一人「横櫛のお富」という女性が登場します。(▼写真は「wiki」)
そして歌舞伎では
「え、御新造さんぇ、おかみさんぇ、お富さんぇ、いやさ、これ、お富、久しぶりだなぁ」という名セリフが使われます。
どこかで一度は聞いたことのあるようなセリフです。
さらに1954年、春日八郎が歌謡曲「お富さん」としてヒットさせ、
歌詞の中の「死んだはずだよ お富さん〜」は当時の流行語にもなったそうです。
寺には、神社にはない墓があり、葬られた人物の歴史があって興味深くもあります。
もちろん神社にも歴史上の人物が神格化されていますが、その対象は少数で、歴史上の人物の墓の数には及びません。
死んだはずの「お富さん」と、死んだ「安っさん」に会えた「選擇寺」でした。
ちなみに「切られ与三朗」の墓も選擇寺の近くにあります。
▼木更津の寺社記事です。