なんでも無い、なんにも無い(失礼!)普通の街が突如脚光をあびる!
須賀町、若葉は地元の人か、墓参りの人、または知人でもいない限り、ほとんどの人が足を踏み入れたことの無い地域のはずだ。それが昨年のアニメ映画のヒット以来、若者たちがウロウロ、カメラカシャカシャ、ジャンジャンやって来る。
全く静かな街だったのに! 眠れない街になった。
普段は外部からの訪問者も少なく静かな街が急にザワつき始め、アニメなどトント興味の無い近所に住む爺ィさん。「何事か?」とヨロヨロ通りに出てくるが、若者たちは須賀神社への階段を登ったり降りたりして写真を撮っている。
「この階段が何でそんなに珍しいんだ? 新しいものは出来ておらんぞ、以前と何も変わってない、神社の祭りでもないし、おかしいじゃないか?」 しばらく黙って観察していても若者たちが何をしているのかサッパリ理解できない。神社で何かやっているのか? 確かめたくてもこの階段を登る勇気はない。首をかしげつつ家に戻り2人暮らしの婆ァさんに尋ねても、これまたさっぱりわからない。
若者たちは次の日もやって来る。週末は階段の上は人だかりが溢れて転げ落ちてきそうだ。だいたいこの頃の若者は気に入らん「何があるのだ?」と尋ねるのも癪にさわる。ほっておいた。
だが、どうも気になって落ち着かない。さすが夜には若者はやってこないが、気になって眠れない「明日もやってくるぞ!」爺ィさん翌日、ここは癪な気持ちをムリムリ半年ぶりの作り笑顔に変え、階段から降りてきたカップルに尋ねた「アンタたち皆んな何をしとるのっ?」
最初は咎められたのかと警戒していた男女、そうではなく爺ィさんが何を知りたいか理解し、半ば得意になって説明しだした。
爺ィさん、わかったような、わからないような「ふ〜ん!? 聖地巡礼? 四国巡礼みたいなもんか?」「いや、だから、そのアニメの聖地・・」「アニメって漫画だろっ?」「君の名は? 昔どこかで聞いたようなセリフだなぁ」
どうも最近の若い奴らとは話が噛み合わないなぁ。話の理解は途中で諦めブツブツ言いながら家に戻る。婆ァさんに事の顛末を話す。
「あらっ、お前さん、君の名はって、あたしが若い頃ラジオドラマで聴いてたあれよっ、佐田啓二の映画も2人で観たじゃないですか!」「そういえば、佐田啓二と、たしか女は岸恵子、どこかの橋の上のシーンの岸恵子は覚えているぞ、おまえより綺麗だったからなぁ」「あらっ馬鹿だよお前さん、数寄屋橋ですよ!」「有楽町だな?! しかしここは四谷だ、映画に出てこなかったぞ、神社も、たしか! 5、60年も前のことだからよう覚えとらんがなぁ。
う〜むっ、岸恵子と橋と階段か? 今夜も眠れんぞ!」
もしかして、こんな騒ぎもあったかも、わしの想像力の貧相さがバレるわっ!
でも、街がまた元の静けさを取り戻せれば、爺ィさん、婆ァさんも安眠できるわねっ!